本研究の意義は,戦前期の高等商業学校入試問題を教育史資料として体系的に分析し,日本の商品売買処理法の変遷を教育実践の観点から明らかにした点にある。また,その背景に Paton・Stevenson の Working Sheet をはじめとする米国会計学の影響が存在したことを示し,日本の簿記教育を国際的な視点から位置付けた点にも特色がある。
現在の簿記教育では,ややもすれば「し・くり」「くり・し」といった決算整理仕訳を暗記する教育が重視されかねない。しかし,歴史的には複数の商品売買処理法が併存しており,それぞれ売上原価および売上総利益を異なる方法で算定していた。本研究は,形式的な処理方法の暗記的学習ではなく,売上高・売上原価・売上総利益の計算構造を理解することが簿記教育の本質であることを示唆している。
さらに,近年はコンピュータAI会計の普及や国際的な会計実務との整合性を背景として,売上原価対立法への関心が高まる可能性も考えられる。このような状況を踏まえれば,商品売買処理法の歴史的変遷を踏まえつつ,現代の会計実務に対応した簿記教育の在り方について,改めて検討する必要がある。