長引く景気低迷や雇用不安を背景に、最近では予備的貯蓄の高まりが指摘されている。リスクの増大は貯蓄を増大させる可能性があるが、所得のハイリスク・ハイリターンの関係を考慮すると、消費の平準化効果から、将来の期待所得の増大が現在の貯蓄を低下させる可能性もある。所得階層別のデータを用いて実証分析を行ったところ、バブル崩壊以降、賃金リスクの高まりが貯蓄を増大させる傾向が低所得階層の世帯にみられている。
リスクの増大によって貯蓄が増大しているとき、増大した貯蓄は危険資産ではなく安全資産に向かう可能性が高く、日本の家計のポートフォリオ選択の特徴として指摘されてきた「預貯金偏重」がさらに強まる可能性がある。ただし、効用関数の形状等の条件によっては、リスクの増大が危険資産への需要を低下させるとは限らない。一般に、賃金と国内株式等の収益率の相関は共通のファンダメンタルズに基づくと考えられることから、株式等への需要を減少させるとみなされることが多い。しかし、家計の効用が消費と余暇に依存しかつ両者が分離不可能であるような場合には、株式への投資比率は消費と余暇の代替性に依存することになる。また、トレンドを除去すると、賃金成長率と株式等収益率の相関は負の相関を示す可能性が示唆された。