本研究は,メインバンク関係が融資先企業の財務報告の質に及ぼす影響を検証した。財務報告の質は,コーポレート・ガバナンスにおいて,私的情報によるモニタリングと代替関係にあるとされる。日本のように,メインバンクが企業と私的情報のコミュニケーションを通じて,情報の非対称性の緩和を図る経済では,私的情報によるモニタリングの重要性は高まり,財務報告の質の重要性は低下すると考えられている。もしメインバンク関係が財務報告の重要性を低下させているのであれば,メインバンク関係が強いほど,その融資先企業の財務報告の質は低いものと予測される。分析の結果,本研究は,2001年度以降の「自己資本比率規制の枠組み定着期」では「メインバンクの融資に高依存の企業は,低依存企業に比べて,財務報告の質は高い」との証拠が得られている。また,本研究は,分析期間によらず,「メインバンクの所有比率が高い企業は,低い企業と比べて,財務報告の質は高い」との証拠を得た。