本書は、『延慶本平家物語』(延慶2・3年<1309・10>書写、応永26・27年<1419・20>転写。大東急記念文庫所蔵)の言語について、「和漢融合」の観点から総合的な研究を行ったものである。「和漢融合」とは、平家物語の文体である「和漢混交文体」について、これを「和文体」「訓読文体」「記録体」(和化漢文の文体)などの各表現システムの「融合」によって成立したものと捉える見方である。著者は延慶本の文体を雑然と「混淆」したものとはみなさないので、「和漢混淆文体」ではなく、「和漢融合文体」という名称を用いる。この見方に立って研究を進め、延慶本の表現システム(和漢融合文体)は従来に比べて飛躍的に表現機能を進化させたものであり、その背景に「語り」という多数の聞き手に対するコミュニケーションのあることを明らかにした。本書は著者が平成18年5月に、筑波大学へ学位請求論文として提出した「延慶本平家物語の日本語史的研究」を基に、若干の補筆・修正を加えたものである。