排耶説法の原稿、事実確認註記が付けられたキリシタン由来の日本殉教者伝、そして様々な排耶物語の原型を含む雪窓宗崔文書。両半球を繋ぐ商人資本と朝貢経済が併存する近世社会を統制する上での、大衆の内面性と現実認識を巡る情報戦争の貴重な資料である。一方、棄教者から得られた内部情報に基づき「キリシタン国」を悪とする物語が綴られているだけではない。本発表ではこの資料に見られる聖人の俗伝、イベリア世界征服の精神が凝縮している騎士物語の引用、意外にも事実であった薬物貿易の告発にヒントを得て、宗門改と異端審問、ピカレスク小説と元禄文学、イエズス会の開祖伝とコロンブス交換という「近世化」を日西の現象として捉え直す。